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ワインの香りを表現する言葉に、バターやチーズ、ヘーゼルナッツのような香りがあります。
ワインはブドウを原料として造られるのに、バターやチーズのような乳製品の香りがするって不思議ですよね。
それは、ワインの醸造でおこなわれる「マロラクティック発酵」という工程によって生み出されるものなんで。
そこで、本日はワインの味をまろやかにするマロラクティック発酵についてお話します。
「マロラクティック発酵」とは?
マロラクティック発酵(malolactic fermentation)通称MLFとは、ワインを醸造する工程の1つで、アルコール発酵のあとにおこなうのが一般的です。
アルコール発酵はアルコールを生成するための発酵で、酵母がブドウの糖分をアルコールと炭酸ガスに分解していくことで、ブドウの果汁がワインへと変化していきます。
一方マロラクティック発酵は、ワインに含まれる有機酸の1つであるリンゴ酸が、乳酸菌によって乳酸(Lactic Acid ラクティック・アシッド)と炭酸ガスに分解する発酵のことです。
リンゴ酸は未成熟なブドウに多く含まれており、リンゴ酸の濃度が高いと尖った酸味を感じます。
これが乳酸菌の働きによって、酸味が少なくなり味わいがまろやかになります。
また、乳酸だけでなくジアセチルやアセトインなどの化合物も生まれることで、バターやチーズ、ヘーゼルナッツのような香りが生まれ、低濃度では香りに複雑さを与えると言われています。
さらに、リンゴ酸が乳酸に変化することで、ワインがより安定して熟成することができます。
これは、リンゴ酸が微生物に食べられやすい性質の酸のため、微生物に食べられにくい乳酸に変わることで、ワインがより安定して熟成することができるようになり、乳酸菌がワイン中のアミノ酸などの栄養素も使うことで、雑菌も発生しにくくなるのです。
マロラクティック発酵はどのようにしておこなわれるのか
マロラクティック発酵は、もともと木樽や醸造設備の中から乳酸菌が自然と混入して起こるものですが、自然に任せていると反応が起こらないケースもあり、近年はMLFのスターターとして培養した乳酸菌を加えて発酵を促進していることが多いようです。
マロラクティック発酵はどんなワインにおこなわれるのか
マロラクティック発酵は、ほとんどの赤ワインと一部の白ワインとスパークリングワインにもおこなわれています。
マロラクティック発酵をおこなうことで、角のある酸がとれ、味にまろやかさや、深み、複雑味が増すため、赤ワインにはほとんど適用されています。
赤ワインの場合は、アルコール発酵を終えた後、果皮や種、酵母を分離するためにプレスし、ステンレスタンクに移し、その中でスターターの乳酸菌を添加してマロラクティック発酵をおこないます。
また白ワインでも、ブルゴーニュの高級白ワインのように樽熟成させるシャルドネなどの品種はマロラクティック発酵をおこなうことで、複雑味が増し、ジアセチルやアセトインなどの化合物によって、バターやナッツのような香ばしく奥行きのある香りも生まれます。
そして、シャンパーニュのような冷涼な地域のスパークリングワインにもマロラクティック発酵がおこなわれます。
冷涼な気候で育つブドウは糖度が上がりにくいため、酸が強くその酸を和らげるためにマロラクティック発酵を行いますが、近年地球温暖化により冷涼だった産地も気温上昇によりブドウの成熟度が上がっており、マロラクティック発酵をしない生産者も増えてきています。
マロラクティック発酵をおこなわない生産者も増えてきている?
前述のとおり、地球温暖化による気温上昇でブドウの酸が減少していることや、よりヘルシーに自然にワインを楽しみたいという消費者の健康志向の高まりなどもあって、マロラクティック発酵をおこなわないという決断をする生産者も増えてきています。
マロラクティック発酵は、酸を減少させることでワインの味わいをまろやかにする効果がありますが、バランスを欠いてしまうと余計な雑味が生まれて味わいが損なったり、にごりなどの影響を及ぼすこともあります。
また、ボジョレーヌーボーなどのフレッシュさを味わう一部の赤ワインにはあえてマロラクティック発酵をおこなわないこともあります。
また、白ワインもフレッシュでシャープな酸が味わいの決め手となる、リースリングや、ソーヴィニヨン・ブランなどには基本的にはおこないません。
また、さきほど例にあげたシャンパンでも、あえてマロラクティック発酵をおこなわいシャンパンメゾンもあり、ランソン、クリュッグ、サロンなどはブドウのフレッシュな果実味を保ちながら長期間かけてゆっくりと熟成させる元来のシャンパン製造の伝統的な技法を頑なに守り続けています。
そのため、酸を落ち着かせるためには長い期間瓶熟成が必要となり、ノンヴィンテージであっても15ヶ月という規定熟成期間を大きく上回る最低36ヶ月という長期の熟成期間を取らなくてはならないため、コストも手間もかかります。