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80年の時を経て沈没船で発見された奇跡のシャンパンについて、以前、このソムリエ手帳でもお話したことのありますが、海底にあえてワインを沈めて寝かせる熟成方法があるんです。
そこで、本日は海底で熟成させたワインの特徴についてお話します。
起原は沈没船から発見されたワイン
1916年、第一次世界大戦中フィンランドに駐留するロシア軍のために、エドシック・モノポールの1907年ヴィンテージのシャンパーニュや、ブルゴーニュワインなどを送るため一隻の船が出航しました。
これらのワインを積んだ船がジョンコピング号。
スウェーデン沖を航海中にドイツの潜水艦より撃沈され海に沈んでしまいます。
それから80年の時を経て、1998年この船は引き挙げられ、シャンパンを開けて飲んでみるとまだ泡が十分に立って、なんと美味しく飲めたそうです!
ちなみに、ジョンコピング号に積まれたシャンパンは、オークションでなんと一本100万円の値がつきすべて完売しました。
海底は熟成環境に適している
80年も経過したシャンパンがなぜそれほどまでに保存状態がよく保てたのか…
それは、ワインの最適な保存条件にピッタリとあてはまったからです。
ワインの最適な保存には3つの条件があります。
それは、「温度」「光」「湿度」です。
「温度」は、13~15度が最適な温度とされ、温度が暑すぎても寒すぎてもワインを劣化させることになります。
30度を超える部屋にワインを置いておくと煮え始めると言われており、寒い場所では味のバランスが崩れて美味しさを損なってしまいます。
急激な温度変化があったワインがどのくらい劣化してしまうのか、コルクが抜け出していない状態のワインで一度凍ってしまったものを解凍してから、1週間後に飲んだ場合、厚みは感じられないものの、そのワインの個性はしっかりと発揮されていておいしく飲めたとのこと。
しかしながら、そこから数か月、数年後も同じように飲めるかは不明です。
次に、高温の温度変化があったワインはどうか、ワインのアルコール発酵の酵母菌の活動は約32℃以上で停止してしまいます。
そして、高温の状態で保管が続くと、瓶内のワインが急激に膨張し、コルクが押し上げられ液漏れしてしまうことがあります。
液漏れしたワインを適正温度で保管し1週間後位に飲んだ場合、キャップシールとコルクに液漏れの跡があったものの、ワインに関しては不快感無く飲めたが、4ヶ月以上経過するとワインのバランスは大きく崩れている様に感じられるとのことでした。
次に「光」。
ワインはできるだけ光を避けて暗い場所で保存し、紫外線に当てないことが望ましいです。
最後に「湿度」。
乾燥した場所で保管していると、コルクが乾燥して縮み、そこから空気が入ってワイン酸化させてしまいます。
理想的な湿度は65~80%とされています。
ジョンコピング号が沈んでいた水深64mの海底では、ワインを劣化させる原因となる太陽の光は遮られ、
ワインを保管するのに必要な湿度があり、温度もシャンパーニュに最適とされる温度を80年間維持していたため、ワインの保存に大変適した環境だったのです。
まさに、奇跡的な条件が揃った場所に沈んでいたシャンパンなのです。
海底と通常で熟成させたワインの違いとは
実は、こうした海底でワインを熟成させる方法をあえておこなっているワイナリーがあるんです。
それが、クロアチアにあるエディーヴォ・ヴィナというワイナリー。
アドリア海沿岸のドブロブニクから北へ1時間のペリェシャツ半島という所にあるエディーヴォ・ヴィナでは、良質なブドウからワイン造りが盛んにおこなわれており、そこで造られたワインを地上で3カ月間熟成させた後、海底で2年間熟成させています。
海底に沈めるワインは2種類あり、1つ目は750mlの通常のフルボトルサイズのガラス瓶にワインを入れ、そのガラス瓶をアンフォラという古代ワイン造りに使用していた陶器の壺に入れて、厳重にコルクとワックスで口の部分を覆います。
2つ目はボトルごとダイレクトに海底に沈めます。
水深18m~25mの海底に700日以上保管し熟成させます。
肝心のお味の方はというと、海底で熟成させたワインと、地上のみで熟成したワインを飲み比べると、あまりの味の差に驚くと言います。
香りが開いて、タンニンや、酸、果実味などすべての要素が見事に混ざり合い、全体的にまろやかな深い味わいになるそう。
日本でも海底にワインを沈めて熟成するプロジェクトをおこなっている会社が販売しているワインもありますので、一度試してみるのもありかもしれません。
紺碧のアドリア海で熟成した「海の宝」という名のスパークリングワイン
スロベニアでは「海がすべての傷を癒す」と言われ、この地域ではワインを海や川に沈め保存するという風習がありました。
時々、ワインが水の中で保存されたまま忘れ去られ、次の季節まで底で残っていることがあり、その“忘れ去られたワイン”は不思議なことに水の中で熟成を続け、素晴らしい味へと変貌することがあったと言われています。
その“忘れ去られたワイン”の味を再現するために、アドリア海の海底で熟成を始めたのが、このマーレ・サント・プロジェクトの始まりです。
水深20mの海底で1年間の長期熟成をさせることで、この深さは海流が激しく年間を通じて海水温はほとんど変化しないうえ、海の絶え間ない動きにより、コンテナに入ったボトルが移動を繰り返し、スパークリングワインの酸の角が取れ、包み込む海水がコルクを通してスパークリングワインに独特の風味と円みを与えます。
また、海中で1年熟成させる間にボトルには貝や石灰藻が付着し、世界に1本だけの自然が造ったアートが生まれます。
マーレ・サント・キュヴェ・プレステージ
アドリア海沿岸部の伝統的な品種であるレブラ(イタリアではリボッラ・ジャッラ)50%使用したこのワインは、アカシアなど白い花の香りや、レモンやグレープフルーツ、青リンゴを思わせる豊かな香りが特徴で、豊富な酸とミネラルが感じられます。
残りはシャルドネ50%使用しており、魅惑的でアロマティックな果実味とほのかなトースト香が感じられ、非常に完成度の高い味わいです。
マーレ・サント・ロゼ
ピノ・ノワール100%で造られるマーレ・サントのロゼは、すみれ色の反射を伴う穏やかなピンク色で、ワイルドベリー、チェリーなどのアロマと心地よいフレッシュ感があり、甘いアーモンドと スグリのフレーバーが非常にエレガントで、複雑味のある味わいと繊細な泡が持続するスパークリングワインです。