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以前、このソムリエ手帳でお話したクロアチアの隣国のスロベニア。
日本の四国とほぼ同じくらいの小国ですが、
古くからヨーロッパ文化の交易路として栄えてきました。
西にイタリアのフリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州に接し、
オレンジワインの隠れた産地でもあります。
そこで、本日はスロベニアのワインについてお話します。
スロベニアについて
スロベニアは、西にイタリア、北にオーストリア、南から南東にかけてクロアチア、
北東にハンガリーとの国境に接し、国土は20,273平方㎞で、
日本の四国とほぼ同じくらいの小国ですが、
古くからヨーロッパ文化の交易路として栄えてきました。
スロベニアには、アルプス山脈とディナル・アルプス山脈、
地中海のアドリア海に沿った海岸部と、モザイク状の構造で多様性に富んだ景観があり、
国土の66%が森林で多様な自然を擁しています。
スロベニアは、1991年 に旧ユーゴスラビアから独立をし、
今年でちょうど建国30年を迎えます。
建国からはわずか30年ほどですが、歴史は古く6世紀ごろに南スラヴ人が定着し、
国名でもあるスロベニアは、「スラブ人の国」という意味があり、
7世紀には南スラブ系のカランタン人によるカランタニア公国が成立しました。
その後、バイエルンやフランク王国の支配下にはいり、
14世紀以降、ローマ帝国のカトリック教会の影響を強く受けていきます。
15世紀には、ハプスブルク家の所領となり、以降オーストリア帝国となります。
19世紀初頭、ナポレオン・ボナパルトのフランス帝国による支配を受け、
現在の首都のリュブリャナはフランス第一帝政イリュリア州の首都として設置され、
スロベニア語が州の公用語のひとつとなりました。
1945年、ユーゴスラビアの構成国スロベニア人民共和国となり、
1991年6月にユーゴスラビアとの連邦解消とスロベニアの独立を宣言しました。
独立後は、他のどの旧ユーゴスラビア諸国よりも早く、民主的体制が整えられ、
2004年3月にはNATOに、同年5月1日に欧州連合(EU)に加盟しました。
現在は、ロボット工業、AI、新エネルギー、エコなどの産業が盛んで、
80%輸出をする製造業国となりました。
ワインの歴史はもちろん古く、紀元前400年頃、ケルト人によりワイン造りが始まりました。
他のヨーロッパの産地同様、ローマ帝国の繁栄と共にワイン産業は拡大し、
中世になるとカトリック教会の修道士の手によってワイン造りが盛んにおこなわれました。
19世紀後半にヨーロッパ全土を襲ったフィロキセラの影響もスロベニアのワイン産業に大きな打撃を与え、
およそ半数のブドウ樹を失いましたが、
第二次世界大戦後は、ブドウの作付面積も増え、次第にワイン文化が浸透していきました。
現在は約28,000軒ものワイナリーがあり、大半が家族経営の小規模ワイナリーで、
自然派なワインが造られています。
スロベニアのテロワール
スロベニアは、前述のとおり西にイタリアのフリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州に接し、
緯度もフランスのボルドー地方と同じ、北緯45度に位置します。
地理的にもワイン造りに適した気候をもっており、
ブドウの栽培面積は22,059haで、年間900ヘクトリットル(=9億リットル)生産しています。
スロベニアには3つのワイン産地があり、
西の産地であるプリモルスカは、イタリアのフリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州に接し、
土壌もフリウリ=ヴェネツィア・ジューリアの産地でみられるポンカと呼ばれる幾層にも重なった、
沖積土壌が多く見受けられます。
ここでは、スロベニアの全生産量の40%を占めるワインが生産されており、
赤ワイン、白ワイン、オレンジワインが造られています。
北東のポドラウイェでは、リースリングやソーヴィニヨン・ブランから辛口の白ワインと、
スパークリングワインがおもに造られており、極甘口のアイスワインも造られています。
クロアチアに接する南東のポサウイェでは少量ですが、
ライトボディの赤ワインや甘口ワイン、アルコール度数が10~11%と低めのワインが多く、
そのほとんどはクロアチアで消費されています。
スロベニアで栽培されている主なブドウ品種
ブドウは、白ブドウ品種が37種類で7割、黒ブドウ品種が15種類で3割の比率で栽培されており、
もっとも多く栽培されているのが、白ブドウ品種のヴェルシュ・リースリングで、
シャルドネ、リースリング、ソーヴィニョン・ブラン、マルバジアと続きます。
そのほか、ピノ・グリ、ピノ・ブラン、ゲベルツ・トラミネール、モスカート・ビアンコ
ケルナー、ミュスカ・オットネル、グリューナー・シルバネール、フリウラーノ
フルミント、リボラジャッラなど、イタリアやドイツで多く栽培される品種が多くみられます。
黒ブドウ品種は、フリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州、ヴェネト州を中心に
古くから栽培されてきた黒ブドウ品種のレフォスコがもっとも多く栽培され、
ピノ・ノワール、メルロー、カベルネソーヴィニョン、バルベーラ、シラー
ツヴァイゲルト、ガメイなど国際品種が多く栽培されています。
スロベニアワインの特徴
スロベニアでは、ジョージアやイタリアのフリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州のように、
昔ながらの製法を引き継ぐ生産者も多く、
白ワインがおもに造られていますが、オレンジワインの隠れた産地でもあります。
オレンジワインは、フランス語でマセラシオン・ペリキュレールと言う
醸造方法で造られるワインで、白ブドウを破砕した直後に圧搾をせず、
約4時間~24時間果汁に果皮を浸し、その後、通常通り果皮と果汁が圧搾され、
その果汁のみがアルコール発酵へと進むのです。
この果汁に果皮を浸すことで、果皮に含まれる黄色系色素が溶出しオレンジに近い色調になり、
酸味を和らげ、バランスのとれた、まろやかな口あたりのワインに仕上がります。
同時に、色合いにも深みが増し、香りが豊かになる効果もあります。
さらに、赤ワインに比べると少ないものの、
ポリフェノールやタンニンも含まれるため、
渋みがある複雑な味わいの白ワインとなります。
オレンジワインに使われるブドウ品種は、リボッラジャッラと言って
スロベニアではレブーラの名で知られるブドウを用いており、
ブルダ市でおもに栽培されています。
スロベニアのオレンジワインは、フリウリやジョージアと比べると、
自然派なのにクリーンで飲みやすく、まろやかで旨味が強いのが特徴です。