この記事を読むのに必要な時間は約 5 分です。
ワインの醸造にマロラクティック発酵という工程があるのをご存知ですか?
このマロラクティック発酵をおこなうことによって、酸味の強いワインをまろやかな味わいにすることができます。
そこで、本日はマロラクティック発酵についてお話します。
マロラクティック発酵とは
マロラクティック発酵(malolactic fermentation)通称MLFとは、ワインを醸造する工程の1つで、アルコール発酵の後に行うのが一般的です。
アルコール発酵は、アルコールを生成するための発酵で、酵母がブドウの糖分をアルコールと炭酸ガスに分解していくことで、ブドウの果汁がワインへと変化していきます。
一方、マロラクティック発酵は、乳酸菌がワイン中にあるリンゴ酸を乳酸と炭酸ガスに分解する発酵のことをさします。
リンゴ酸は、未成熟なブドウに多く含まれており、リンゴ酸の濃度が高いと尖った酸味を感じます。
乳酸菌の働きによって、このリンゴ酸を乳酸に変化させることで、減酸効果がおきて、味わいがまろやかになります。
また、乳酸だけでなくジアセチルやアセトインなどの化合物も生まれることで、バターやチーズ、ヘーゼルナッツのような香りが生まれ、低濃度では香りに複雑さを与えると言われています。
さらに、リンゴ酸が乳酸に変化することで、ワインがより安定して熟成することができます。
これは、リンゴ酸が微生物に食べられやすい性質の酸のため、微生物に食べられにくい乳酸に変わることで、ワインがより安定して熟成することができるようになり、乳酸菌がワイン中のアミノ酸などの栄養素も使うことで、雑菌も発生しにくくなるのです。
赤ワインではほとんどマロラクティック発酵をおこなう
マロラクティック発酵は、もともと木樽や醸造設備の中から、乳酸菌が自然と混入して起こるものですが、自然に任せていると、反応が起こらないケースもあり、近年はMLFのスターターとして培養した乳酸菌を加えることが多いようです。
マロラクティック発酵をおこなうことで、角のある酸がとれ、味にまろやかさや、深み、複雑味が増すため、おもにほとんどの赤ワインにおこなわれます。
赤ワインの場合は、アルコール発酵を終えた後、果皮や種、酵母を分離するためにプレスし、ステンレスタンクに移し、その中でスターターの乳酸菌を添加してマロラクティック発酵をおこないます。
また、白ワインでも、シャルドネのように樽熟成させる品種は、マロラクティック発酵をおこなうことで、複雑味が増し、香りもバターやナッツのような香ばしく奥行きのある香りになります。
シャンパーニュやブルゴーニュの高級白ワインなどがまさにその代表的な例です。
マロラクティック発酵をおこなわないワイン
マロラクティック発酵は、おもに赤ワインにおこなうことが多いとお話しましたが、ボジョレーヌーボーなどのフレッシュさを味わう一部の赤ワインにはおこなわいこともあります。
また、白ワインもフレッシュでシャープな酸が味わいの決め手となる、リースリングや、ソーヴィニヨン・ブランなどには基本的にはおこないません。
また、さきほど例にあげたシャンパンでも、あえてマロラクティック発酵をおこなわいシャンパンメゾンもあり、フレッシュでいきいきとした酸のある味わいが魅力のシャンパンもあります。
代表的なメゾンとしては、ランソン、クリュッグ、サロンなどで、マロラクティック発酵をおこなわず、ブドウのフレッシュな果実味を保ちながら長期間かけてゆっくりと熟成させる、元来のシャンパン製造の伝統的な技法を、頑なに守り続けています。
しかしながら、マロラクティック発酵を行わないことで、酸を落ち着かせるためには長い期間瓶熟成が必要となり、ノンヴィンテージであっても15ヶ月という規定熟成期間を大きく上回る最低36ヶ月という長期の熟成期間を取らなくてはならないため、コストも手間もかかります。
マロラクティック発酵によるワインの違い
前述の通りリンゴ酸が乳酸に変わることで、尖った角のある酸味がとれ、まろやか味わいのワインになります。
また、ダイアセチルやジアセチルといった香り成分が発生することで、バターやチーズなどの乳製品の香りや、βダマセノンという香り成分によるバラのような香りが生まれます。
こうした香り成分は少量であればワインに複雑さや奥行きのある香りを与えます。
そして、微生物に対する安定性が強まることで、ワインをより安定的に熟成することができるため、長期熟成型のワインを造ることができます。