樽や瓶では無く土器で熟成させるアンフォラワインの特徴

樽や瓶では無く土器で熟成させるアンフォラワインの特徴

樽や瓶では無く土器で熟成させるアンフォラワインの特徴

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アンフォラとは

以前、このソムリエ手帳でもお話したことのあるジョージアのクヴェヴリ製法。
太古のワイン製法であるこの造り方が、再び世界で注目を集めています。
そこで本日は、クヴェヴリ製法に用いられる土器のアンフォラについてお話します。

アンフォラとは

アンフォラとは素焼きの壺で、容量は100リットルほどの小型のものから、4000リットル前後までとさまざまな大きさがあり、古代ギリシャでは、ワインをはじめ、オリーブオイルなどの液体や物品を運んだり保存するために用いられていました。
当時用いられていたアンフォラの多くは40リットル前後と運搬しやすく、持ち手もついており、地面に突き立てるために底が尖っているものでしたが、現在ワイン造りで用いられるアンフォラは、持ち手はなく、卵を逆さにしたような丸みのある形状で、大きさは100~4000リットルとさまざまな大きさがあります。

アンフォラを使ったワインの歴史

「ワイン発祥の地」として脚光を浴びているジョージアでは、なんと紀元前6000年も前から、このアンフォラを用いたワインが造られていました。
ジョージアでは、アンフォラのことをクヴェヴリと言い、伝統的な醸造法は、底の部分は平らではないため、「マラニ」という石造りの蔵の地中に埋め込んで使用されます。
口の部分が地面より20cmほど下になるよう埋められたクヴェヴリの中へつぶしたブドウを投入し、厚手のガラス板または木の板で蓋をし、その周りに粘土を一周させ、地表の高さまで粘土で密封し、その上に砂を盛って、土の中で5〜6ヶ月寝かせます。
その後、ワインを別のクヴェヴリに移すことで自然濾過を施し、ワインをさらに熟成させます。
このクヴェヴリ製法は、2013年にユネスコ無形文化遺産に登録されました。
そして、近年このクヴェヴリ製法をワイン界に広めたのが、イタリア北部、フリウリ・ヴェネツィア・ジューリアのオスラヴィアでワイン造りをおこなう、イタリア最高の白ワイン生産者と讃えられるヨスコ・グラヴネル氏です。
ジョージアで飲んだワインにインスパイアされ、アンフォラでのワイン造りを1997年から実験的に開始し、2001年より正式に採用し大成功を収めました。
これをきっかけにイタリア国内でアンフォラでのワイン造りをおこなう生産者が徐々に増え、自然派ワインの造り手を中心に、アンフォラでのワイン造りが再び注目を集めています。

アンフォラで熟成させるとどうなる

アンフォラを使った醸造をおこなう場合、ジョージアで造られるオレンジワイン(アンバーワイン)のようにつぶしたブドウを、果皮や種を果汁に浸けて発酵が行われます。
アンフォラは素焼きの粘土で作られているため気密性が低く、木樽のようにワインに微量の酸素を供給することができ、ゆるやかな酸化による熟成をおこなうことができます。
また、外気の温度変化の影響を受けにくく、アンフォラ特有の卵型の形状により、自然対流を生み出すため、撹拌をせずに自然とじっくりワインを寝かせることができます。
こうしたことから、ワインに人の手を極力かけず、自然にもっとも近い形でワインを造ることができるため、アンフォラを使ったワイン独特の風味と複雑味が表れます。

アンフォラワインの味わい

アンフォラで造られたワインは、木樽で熟成させたワインのように、緩やかな酸化によるまろやかさが出ますが、木樽由来の香りやタンニンがワインにつかないため、クリアなブドウのピュアな果実味も得ることができます。
また、果皮や種とともに果汁を半年近く寝かせるため、ジョージアのオレンジワイン(アンバーワイン)のように、黄色系色素が溶出しオレンジに近い色調になります。
味わいも、複雑味が感じられ、収斂性のある引き締まった口当たりのワインになります。

アンフォラから造られるワインの特徴

アンフォラを使ったおすすめのワイン

ブドウからアンフォラまでハンドメイドにこだわる世界で唯一のワイナリー

オレゴン州はよく「アメリカのブルゴーニュ」と形容されますが、それは単にピノ・ノワールの生産量が多いからというだけではなく、オレゴン州は個性的な小規模ワイナリーが多く、そこから生み出される多様なワインが、ブルゴーニュのドメーヌと呼ばれる家族経営の小規模生産者を想起させるためです。
そんなオレゴン州のアーティストが集まる「全米一住みたい町」ポートランドの南、 シャーウッドの自然の中に、陶芸工房と併設されてベッカム・エステートはあります。
ベッカム・エステートは 2004年、ベッカム夫婦が陶芸工房を建てるためにこの地へやってきたことから始まりました。
移住した翌年に、家の周囲に畑を切り開きブドウを植え始め、その後畑を徐々に拡張していき、彼らの土地34エーカーのうち、およそ半分がブドウ畑と、ワイナリーの施設へと姿を変えました。
ワイナリーにはテイスティングルームと醸造施設の他、このワイナリーならではの特徴である陶芸工房があります。
エステート内で造られたテラコッタ製のアンフォラは、このワイナリーのブドウ畑で育ったブドウを発酵、熟成させるために使います。
ブドウから醸造設備であるアンフォラまでハンドメイドにこだわる世界で唯一のワイナリーなのです。

陶芸家であり醸造家であるアンドリュー・ベッカム

ANDREW BECKHAM(アンドリュー・ベッカム)は、オレゴン出身、25年のキャリアを持つベテランの陶芸家で、ブドウ栽培とワイン造りの世界に足を踏み入れた後は、オレゴンで尊敬すべき醸造家を訪ね歩き、数年修行しながらワイン造りの技術を磨いていきました。
そして2009年に、初めて自身の畑のブドウを使いワインを造りました。
この時、彼は自分が造るアンフォラを使ってワインを造る、というアイディアを思いつき、世界でも非常に珍しいアンフォラ製造とワイン造りを行うワイナリーが誕生しました。

ベッカム・エステートのワイン造り

「素晴らしいワインは、優れたブドウからしか作られない」という格言に従い、優れた品質のブドウを収穫するために、ベッカム・エステートでは、灌漑などをおこなわないドライ・ファーミングを行うため、畑のことだけでなく周囲の環境を知り活用することや、その生態系を壊さないためにも栽培環境に配慮してきました。
さらに、ブドウ樹自体の力を高めるため2012年以降は、一切の科学的な薬剤は使用せず、病気が蔓延した時など、どうしても必要な時だけ認められている薬剤を使用する、バイオダイナミック農法に切り替えました。
ワイン造りでは、極力人の手を介在させない手法で、酵母は基本的に畑で果皮に付着した野生酵母のみ使い、酸化防止剤もぎりぎりの最低限の量しか使用しません。
発酵に使う設備も、テラコッタとフレンチオークの大樽のみです。
これらはオーク新樽のようなワインの風味へ与える影響が小さいため、ブドウのエレガンスや純粋な果実味など、ブドウ本来のポテンシャルを発揮させることができます。
アンフォラは、独特の流線型のフォルムのおかげで、液体の自然な対流が生まれるため、バトナージュなどの醸造中の作業が抑えられ、ワインに負荷をかけることがありません。こういった魅力から、ワイン造りにアンフォラを使いたいと考える生産者はたくさんいますが、ステンレスタンクや樽よりも流通量が少ないため、取り入れられる生産者は限られています。
ベッカム・エステートでは、陶芸家でもあるベッカム自身がワイン造りに最適なアンフォラを、自身のワイナリーに必要な分だけ作っています。

A.D.ベッカム・アンフォラ・クレタ・シラー・ヴィオニエ
ブドウは収穫後選果、その後徐梗します。ヴィオニエは部分的にプレスし、ジュースを取りますが、一部は別のワイン用にとりわけます。残ったジュースとヴィオニエの粒を、シラー種の入ったアンフォラへ入れ、二種類のブドウが混ざった状態で、野生酵母で発酵させます。
アルコール発酵後、50%はそのままアンフォラで、残り50%はフレンチオーク樽に入れ10か月間熟成させます。 熟成後、両者を合わせて完成させます。
シラー83%、ヴィオニエ17%をブレンドしたこのワインは、南フランス、ローヌの銘酒、コート・ロティでおなじみのブレンドで、プラムなどの黒系果実のアロマに、コーヒーやインクなどのビターで複雑なニュアンスも加わり、濃密で凝縮した味わいで重厚感と複雑味が楽しめる1本です。

A.D.ベッカム・アンフォラ・クレタ・シラー・ヴィオニエ

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