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「スーパータスカン」という言葉は、イタリアワイン好きではない方でも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
イタリアのワイン法では、トスカーナ産のワインとしてリリースするためには、イタリア品種のブドウを使う必要があります。
そのため、ボルドー品種をブレンドしたワインの格付けは最下級のテーブルワイン。
それでも、最高品質である事から「スーパータスカン」と呼ばれるようになりました。
そこで本日は、元祖スーパータスカンと呼ばれるサッシカイアについてお話します。
サッシカイアの歴史
イタリア・トスカーナ州マレアンマ地方のボルゲリ地区にあるテヌータ・サン・グイドというブドウ畑でサッシカイアは造られます。
サッシカイアの誕生は、かつてこのボルゲリの一帯を統治していた、ゲラルデスカ侯爵家の娘が名門ワイナリーのインチーザ・デッラ・ロケッタ家に嫁いだことに始まります。
男系の跡取りがいなかったゲラルデスカ家の広大な土地は、インチーザ・デッラ・ロケッタ家に分けられ、大のボルドーワイン好きだったマリオ・インチーザ・デッラ・ロケッタ侯爵は、第二次世界大戦後フランスワインの輸入が規制されたことで、ボルドーワインが飲めなくなってしまい、当時交流のあったシャトー・ラフィット・ロートシルト家にそのことを伝えると、快くカベルネ・ソーヴィニョンの苗木を送ってくれ、このシャトー・ラフィット・ロートシルト家のカベルネ・ソーヴィニヨンの苗木をテヌータ・サン・グイドに植えたのが、サッシカイアの始まりでした。
もともとは、自家用ワインとして造っていたサッシカイアでしたが、先代オーナーのマリオから息子のニコロに経営が代わり、アンティノリの醸造家であったジャコモ・タキスを迎え入れました。
ジャコモ・タキスは、高密度のブドウ栽培や低収量での収穫、ステンレス発酵タンク、長いマセラシオン、フレンチオークでの樽熟成など、現代的なイタリアワインの技術を先駆けて導入していきました。
1968年、販売を開始すると瞬く間にサッシカイアの評判が広がり、ボルドースタイルのトスカーナワインは世界に周知されることになりました。
さらに、イタリアワインの歴史を変える出来事がおこります。
イタリアのワイン法では、トスカーナ産のワインとしてリリースするためには、イタリア品種のブドウを使う必要があるため、長い間、格付ではDOC外の下位のテーブルワインとして販売されてきましたが、1994年「ボルゲリ・サッシカイア」というDOC呼称を得ることとなり、単独のワイナリーがDOCとなった初のケースとして、イタリアワインの歴史を変えたのです。
その後、サッシカイアに続き、トスカーナの名門ワイナリーのアンティノリ家がサッシカイアから助言を受けオルネライアを造りだしました。
オルネライアは、サッシカイアよりもカベルネ・ソーヴィニヨンの割合が低く、4割ほどメルローがブレンドされており、タンニンはなめらかでシルクのような上質な味わいです。
またカベルネ・ソーヴィニヨンをベースにサンジョヴェーゼをブレンドしたソライアを販売し、サッシカイア、オルネライア、ソライアはスーパータスカンを代表する3大ワインとなりました。
シャトー・マルゴーを抑え、世界のトップワインになったサッシカイア
サッシカイアの実力を世に広く知らしめるきっかけとなったのが、1978年イギリス・ロンドンで開催されたデキャンター誌が主催するブラインドテインスティング対決でのこと。
このブラインドテインスティング対決では、11ヵ国33種類のカベルネ・ソーヴィニョンのブレンドワインを、銘柄を隠した状態でテイスティングしたもので、この中にはかの有名なシャトー・マルゴーも入っており、それらすべてのワインを抑えて1位の座を獲得し、一躍世界のトップワインへ名乗りを上げたのです。
のちにパリスの審判と呼ばれる、カリフォルニアワインとフランスワインのブラインドテイスティング対決の2年後におこなわれたこともあり、またしてもフランスのトップシャトー以外のワインが1位になったということで、ワイン界に激震が走りました。
使用されるブドウ品種
カベルネ・ソーヴィニョンが主体でカベルネフランを補助品種として使用しています。
サッシカイアとは、「サッシ=石、カイア=~な場所」という意味の言葉で、まさに石が多く水はけの良いボルゲリ・マレンマの土壌は、砂質、石灰質、粘土質が入り組んでおり、海に近いことによりミネラル分も豊富で、カベルネ・ソーヴィニヨンの栽培に理想的な土壌です。
また、年間を通して日照量が多く暖かい一方で、夜はしっかりと冷え込むため、一日の温度差が大きく、酸を備えながら肉厚で凝縮した果実味のあるカベルネ・ソーヴィニョンを育てます。
サッシカイアの味わいや特徴
サッシカイアは、とても濃い色調で、カベルネ・ソーヴィニヨン特有の力強い果実味とバランスのよい酸味を味わうことができ豊かな渋みがボルドー・メドックの赤ワインをほうふつとさせ、しっかりとした骨格にトスカーナらしい明るさを感じる味わいです。
サッシカイアの特徴の1つはリリース直後からもすぐ美味しさを感じることができるうえに、長期熟成にも耐えられ10~20年と熟成させてもおいしく飲めます。
ブラックベリー、カシス、マルベリーなどの黒系の果実のアロマに、ジャスミンなどの花とハーブやスパイス、なめし革などのニュアンスが加わった複雑な香り。
口に含むとパワフルながらも非常にエレガントな印象で、しっかりとしたタンニンがあり、フレッシュな果実味とバランスの取れた酸味が見事です。
ミネラル感を帯びた余韻は長く楽しめます。
リーズナブルにサッシカイアを楽しめるセカンドラベルとサードラベル
テヌータ・サン・グイドがサッシカイアのセカンドラベルとしてリリースしているのが、グイダルベルトです。
早飲みができるサッシカイアというコンセプトのもと、2000年から発売されました。
最初のヴィンテージは、40%のカベルネ・ソーヴィニヨン、40%のメルロー、20%のサンジョヴェーゼで構成され、重厚感のあるサッシカイアよりも、まろやかで滑らかな印象があり、しっかりとした果実味がありながらも美しい酸とスタイリッシュさとエレガントさも兼ね備えた非常にバランスのとれた味わいのワインに仕上がっています。
またサッシカイアのサードラベル的存在のレ・ディフェーゼは、現当主であるニコロ・インチーザ・デッラ・ロケッタ氏が、娘のプリシラ女史の結婚式のためだけに造ったものでしたが、そのクオリティのすばらしさから世にリリースされることになり、現在年間120,000本の生産量で造られています。
70%のカベルネ・ソーヴィニヨンと30%のサンジョヴェーゼで構成され、カベルネ・ソーヴィニヨンの力強さとサンジョヴェーゼの芳醇なアロマが見事に調和しており、渋みと酸味のバランスが素晴らしく、全体的にエレガントな印象のワインです。
レ・ディフェーゼ テヌータ・サン・グイード