獺祭
dassai
蔵元、旭酒造の所在地である獺越の地名から「獺(かわうそ)」の一字をとり、銘柄が「獺祭」と命名されました。
獺祭の言葉の意味は、獺が捕らえた魚を岸に並べる様が、まるで祭りをするようにみえるところから、詩や文をつくる時多くの参考資料等を広げちらす事をさします。
かつて、明治の日本文学に革命を起こしたといわれる正岡子規は、自らを獺祭書屋主人と号しました。
キャッチフレーズは「酒造りは夢創り、拓こう日本酒新時代」。
「伝統とか手造りという言葉に安住することなく、変革と革新の中からより優れた酒を創り出そう」
かつて日本文学に革命を起こした正岡子規の姿を重ねるという思い付きも手伝い、酒名は「獺祭」と命名されました。
洗 米
精米後酒蔵に搬入された米は最大144時間という長時間にわたる精米時の摩擦熱により極度に水分を失っています。自然に水分を元の数値に戻してやるため一ヶ月以上そのまま貯蔵して水分含有量を回復した米を洗米します。ここでは洗米後の米の持つ水分を0.3%以下の精度で厳密にコントロールするため通常は大吟醸でだけ使われる技法で全て手洗いされます。人でも時間もかかるやり方です。機械で洗えば人手も三分の一で、時間も六分の一で洗えますが、最新型の洗米機をもってしても機械ではここまでセンシティブに吸水率をコントロールすることができず旭酒造では手洗いを選択しています。
蒸 米
もろみ日数45日間という長い醗酵期間の間酵素力を持ち続ける蒸米を作るためには、一粒一粒が外側が硬くて内側が柔らかい、いわゆる外硬内軟な蒸し上がりの米を作る必要があります。そのためには伝統的に行われてきた和釜の技法が重要になってきます。どうしても釜への米の張り込みや、釜からの蒸しあがった米の掘り出し等、労力のいる作業から逃れられないやり方ですが、少しでもよい蒸米を仕上げるために、この蒸し方を選択しています。
麹造り
麹は酵母に適当にブドウ糖を供給し続け、その醗酵スピードを最適にコントロールするという、一番大事な仕事を酒の醸造の中で請け負います。ですから古来より「一麹二モト」と酒造りの仕事の中で最も大事なものに位置付けられていました。最高の麹を作る為には、全体の米の状態を把握し繊細に時には優しく時には激しく製麹を操作する経験豊かな人の手がかかせません。人間が五感と経験を通して感じる情報をまだ機械では全てを把握しきれません。したがって一切機械を使わず人の手により獺祭の麹は造られます。しかも麹は生き物です。その二昼夜半の製麹期間中、昼夜問わず操作を要求してきます。勿論どんな深夜でも早朝でも必要な操作はしてやらなければなりません。この間に担当者の緊張が切れたらおしまいです。旭酒造では四人の担当者が交代でこの任に当たっています。もしかして酒蔵に来られた時、真っ赤な眼をしている社員がいたら徹夜明けの担当者かもしれません。
仕込み
洗米や麹がバイオリンやピアノにたとえられるとしたら仕込みの担当者はオーケストラの指揮者の能力が要ります。いよいよクライマックスです。旭酒造では全てのもろみに鑑評会の出品酒などと同様の徹底した低温長期もろみの醗酵形態を取らすことを特徴とします。留仕込みの温度も5℃と酵母の生存限界ギリギリの温度からスタートさせます。最高50日の醗酵期間中、もろみ管理上楽だからとか安全だからという理由で高い温度を選択するという考え方はありません。ですから0.1℃の精度でもろみをコントロールすることが必要です。そのため通常であれば、コンピューターとそれに接続された温度コントローラーで管理すれば楽なはずのもろみの温度コントロールも、ここまで精緻なコントロールを要求すると、そういった機械的操作では無理になります。そのため旭酒造では、年間を通じて5℃に設定された醗酵室で自然の発酵熱ともろみの櫂入れ作業の強弱のバランスで制御しています。コスト的にもかかりますし原始的な方法ですが、この精密な温度管理こそより良い酒を造る為には必要なのです。
上 槽
ある高名な技術の先生に言わせると、酒の善し悪しは最初の洗米と最後の上槽で決まるそうです。その先生の周囲に集まる杜氏や技術者は日本でもトップランクの水準の人しか集まらないので、麹から醗酵といった通常大事とされる部分は出来て当たり前という前提で話されたことです。しかし、ことほど左様に上槽ということは重要なことなのです。旭酒造ではここに商業ベースでは日本ではじめて遠心分離機を導入しています。無加圧状態でもろみから酒を分離するため、純米大吟醸の本来持つべき香りやふくらみなどの美点が崩れることなく表現できます。勿論欠点もたくさんあって、無加圧ということは製品の歩留まりは極端に悪くコスト的には厳しくなります。他にも機械そのものが一軒買える位高価であるとか、酒造業者での第一号機だから当然さけられない初期トラブルが発生するとか、たくさんの問題を抱えています。しかし良い酒を造りたいという目的のために思い切って導入しました。
瓶 詰
良い酒を造る為には瓶詰は積極的には貢献しないのでしょうか?いいえ、非常に重要なのです。ここで杜氏が丹精こめて造ったせっかくの良いお酒を駄目にすることは多いのです。旭酒造では搾られたお酒はまるみが出て自然に甘みが増してくるまで、つまり搾ったお酒の中に微妙に残った酵素がデキストリンをグルコースに変えて甘みをより感じるようになるまで、生で貯蔵された後、炭素濾過せず瓶詰めに廻ります。炭素濾過そのものが悪いとは思いませんが炭素濾過をしなければいけない酒を造ることそのものが失敗と考えています。その酒は冷たいまま瓶詰めされた後、パストライザーで65℃まで昇温され、打栓されて後もう一度パストクーラーで20℃まで急冷されます。通常ですとホットパック方式で65℃まで上げた酒をそのまま瓶詰めすれば手いらずですし設備費も何十分の一です。但しこのやり方ですと瓶詰前に温度を上げる過程で香りが他へ吸着してしまいます。旭酒造の冷温瓶詰方式ですと、冷たいまま瓶に詰められるわけですから香りの逃げようがありません。また人間の体温近辺の36℃あたりに酒を劣化させる温度帯がありますが、ここを急冷方式で速やかに通過させることにより劣化を防ぎます。要は少しでも良い酒をとこだわって造られた酒をそのままの姿で瓶詰めすることを目的として設備されています。こうやって瓶詰めされた「獺祭」は一升瓶換算で5万本まで貯蔵できる冷蔵庫で火当てにより一旦崩れたバランスを再度低温で貯蔵して回復させてお客様のもとへと出荷されます。
品質を求め、革新的な方法に次々と挑んできた旭酒造の取り組みが、今世界的に人気を集める獺祭の礎となっています。
酒造り 杜氏の廃止
古来より続く伝統的な杜氏制の日本酒造りを廃止。
醸造工程を徹底的にデータ管理を行い、その活用によって杜氏の作業をマニュアル化しました。
そのうえで、機械化できる部分は思い切りよく機械化、反対にどうしても人の手が必要なところは、繊細な手仕事に徹底的にこだわります。
「磨き」の追及
最上級の「純米大吟醸」に拘る事から、日本最高の精米歩合(削りが多い)を目指した2割3分が象徴的で、多くのメディアにも取り上げられました。
23%まで磨くために要する時間は168時間。
精米歩合だけが最上の日本酒の基準ではありませんが、この雑味を取り除いた原料米から、繊細でエレガント、世界各国のVIPたちも虜にした素晴らしいお酒が作り出されました。
伝統的であることに拘らず、設備を改善
獺祭で最も革新的だった技術の一つが「遠心分離」による酒の搾り、と言われます。圧力をかけることなく搾る事から、日本酒への負担が少ないだけでなく、品質のばらつきも抑えられます。
仕上がりも、まるで雫酒のような、澄んだ雑味の無い味わいが表現されます。
機械1つで建物が1件建てられる、というくらい高額な機械ですが、あらゆる工程でベストを求める旭酒造では、業界では他に例がない、この機械の導入に踏み切り、この選択が獺祭の品質に大きく寄与しています。
今や世界中に愛飲者がいる獺祭。2014年には、三ツ星シェフとして世界的に有名な、故ジョエル・ロブション氏と共同で、パリに店舗を構えました。
また、2019年には世界最大の料理大学と言われるThe Culinary Institute of America大学(通称CIA大学)と提携し、ニューヨークに酒蔵を建築、酒造りを始める計画が進行しています。
日本酒が世界へ広まってゆくためのきっかけになる施設として、世界中から注目されています。
毎年様々な取り組みを打ち出します。この蔵の動向から目を離せません。
23%(77%)という極限まで磨いた山田錦を使い、最高の純米大吟醸に挑戦した、獺祭の中でもとくに有名な1本です。華やかな上立ち香と口に含んだとき のきれいな蜂蜜のような甘み、飲み込んだ後口はきれいに切れていきながらも長く続く余韻を感じます。